ブラジルのスタジアム問題
【建設が進むイタケロン競技場】
長崎県は現在、2014年に開催される「長崎がんばらんば国体・長崎がんばらんば大会」のメーン会場となる長崎県立総合運動公園陸上競技場を改修している。Jリーグを目指す長崎のプロサッカークラブ、V・ファーレン長崎が13年にJリーグに昇格した場合、ホームスタジアムとして使用できるよう工事を進めており、工事途中で供用開始を前倒しし13年3月から利用できるようになった。
Jリーグが開幕する3月からの供用開始となったことで、ほっと胸を撫で下ろしたファンも多かっただろう。行政、クラブ、工事関係者、さらにはチームの勢いが事態を好転させたと言える。
ところが、世界にはスタジアムの完成時期を巡ってもっと大変な状態になっている国がある。次回サッカー・ワールドカップ(W杯)のホスト国であるブラジルだ。
国際サッカー連盟(FIFA)が発表した「2014年サッカー・ワールドカップ伯国大会に向けた競技場建設状況」の報告書によると、FIFA側が指定した期限内に建設可能な競技場は、伯国内12都市で建設中の競技場の中でセアラー州フォルタレーザ市のカステロン競技場しかなく、依然としてW杯開催に黄信号が点滅した状況だという批判が噴出している。
【高所で作業する作業員ら(イタケロン競技場)】
FIFAが特に懸念を示して「高リスク」と位置付けたのはリオ・グランデ・ド・ノルテ州ナタル市内に建設中のアレーナ・ダス・ドゥナス競技場で、工期を過ぎるだけでなくW杯開催までに建設が終わらない可能性さえあるという。
アマゾナス州マナウス市内のアレーナ・アマゾニア競技場とマット・グロッソ州クイアバ市内のアレーナ・パンタナル競技場が「中リスク」に、パラナ州クリチバ市内のアレーナ・ダ・バイシャーダ競技場、リオ・グランデ・ド・スル州ポルト・アレグレ市内のベイラ・リオ競技場、サンパウロ州のイタケロン競技場が「低リスク」と評価された。
さらに、13年6~7月に開催されるコンフェデ杯で使用される5競技場についての見通しはさらに厳しいものとなった。リオのマラカナン競技場、ブラジリアの国立競技場、ミナス・ジェライス州ベロ・オリゾンテ市のミネイロン競技場はコンフェデ杯開催までに完工できるが、FIFA側が要求している工期内の完成は不可能だとして「中リスク」と評価された。
バイア州サルバドール市のフォンテ・ノーバ競技場は「低リスク」だったものの、コンフェデ杯の開会式が行われるペルナンブコ州レシフェ市のアレーナ・ペルナンブコは、このままでは工事の遅れを取り戻せないとして最も厳しい評価を受けた。
【バックスタンド最上段からの眺め(イタケロン競技場)】
ただし、伯政府と建設会社が工事を加速させるために建設機材を増やし、工事現場の労働者も2500人から5000人に増やして対応するとアナウンスしたことに対しては一定の評価を下している。FIFA側は一貫して「最重要事項は工事期限を守ること」だと念を押している。
また、W杯開催12都市では世界中から訪れる観光客や報道関係者が宿泊するための臨時施設の予算が組み込まれていない。さらに、そのうち9都市の競技場では予算を超過する可能性も指摘されている。FIFA側も「政府と開催都市の自治体の計画不足によってこうした事態を招くことがあってはならない」と語気を強めた。
スポーツ省のアルド・レベロ相は、13年コンフェデ杯の開催都市を5都市から6都市に増やすことを検討していると述べ、「すべての会場で予定の範囲内で工事が進んでいる。開催までに間に合わないという競技場は一つもない」と語った。
これらのスタジアムのうち、サンパウロ市郊外に現在、建設している「イタケロン競技場」は14年6月12日に行われる開幕戦の会場。総工費8億2千万レアル(約400億円)で収容人数は65000人の大型スタジアム。客席全てを覆う巨大な屋根が特長的で、ショッピングモールもスタジアム内に建設されている。W杯終了後は地元人気クラブ、コリンチャンスのホームスタジアムとなるため、他のクラブからは羨望の眼差しで見られている。
【広報用に設けられた席に座る筆者(イタケロン競技場)】
しかし、ここも着工の遅れや従業員のスト、不正疑惑、麻薬中毒者のたまり場になるなど、様々な問題を抱えている。工事進捗率は7月末現在で42%。予定では13年12月までには工事を完成させるという。工事を請け負うオデブレッチ建設会社の広報担当ドミンゴス・デ・アラウージョ氏は「もうすぐ作業員を400人増やし2600人にする」と打開策を示す。
伯国内でW杯開催を悲観的に見ている人は83・8%に上り、サッカー王国ブラジルのW杯は一筋縄ではいかないものになりそうだ。
ちなみに「イタケロン競技場」では日本で使用されている温風乾燥機能付きの温水洗浄便座が導入されることになった。トイレットペーパーを必要としない新技術がメリットとされているが、伯国内での普及を「非現実的」とする見方も強い。伯国人が温水洗浄に抵抗を感じる可能性が高いことや、公衆トイレの破壊が日常茶飯事であることから、日本から輸入する技術が浪費に終わってしまうという指摘すら出ている。
適当すぎる国、ブラジル。それでも女の子はかわいくて、サッカーは強い。
【記事引用=フォーリャ、サンパウロ新聞 写真=植木修平、千葉康由】
筆者プロフィール
植木修平 サンパウロ新聞社会部記者。
1976年長崎市生まれ。大卒後、マーケティング関連企業を経て記者へ。
2011年からサンパウロ在住。長崎新聞に「サンパウロ・植木記者のブラジル通信」連載中。
V・ファーレン長崎のファンでもある。
Posted by vista
at 06:06
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